飲食店で水を指して、「お冷」と言う表現を耳にする機会があるかもしれません。
皆さんは、「お冷」という言葉の由来や背景について考えたことはありますか?
若い世代にはあまり馴染みのない表現かもしれませんが、実はこの言葉には日本の文化や伝統が息づいています。
今回の記事では、なぜ水のことを「お冷」と呼ぶようになったのか、その歴史的な背景を詳しく解説します。
「お冷」という呼び名の由来
「お冷」とは、冷たい水を指す言葉です。
この表現は、女房史「お冷やし」が時間を経て短縮されたものとされています。
女房詞の背景
女房言葉は室町時代、宮廷で働く女性たちが使い始めた隠語のような言葉です。
この言葉遣いには、言葉の初めに「お」を付けて敬意を表す、または言葉の末尾に「もじ」を付けて直接的な表現を避けるといった特徴があります。
例えば「おかず」や「おにぎり」は、食品に対して敬意を示すために「お」が付けられています。
また、「しゃもじ」は、料理道具の「杓子(しゃくし)」を直接的でない言葉に変えたものです。
この遠回しの表現は、日本の文化に特有の美意識を反映しています。
当初は広範囲に使われていた女房言葉も、時が経つにつれて食品や日常品に限られるようになりました。
そして、宮廷から一般庶民へと広がり、江戸時代初期には一般的に使われるように定着しました。
そのため、現代においても、無意識のうちに女房言葉が性別を問わず使用されています。
水を「お冷」と呼ぶもうひとつの由来
「お冷」という言葉が水を指すようになったもう一つの由来についてお話ししますが、この説は女房詞の由来説ほど普及していません。
この話の背景には、明治時代に西洋文化が日本に浸透し始めたことが関係しています。
その当時、ある西洋料理店での出来事が起源とされています。
その店には外国人の夫婦が訪れました。
外国人はまだ珍しい存在で、他の日本人客が夫婦に注目していましたが、店は非常に混んでおり、店員は彼らに気が付かずにいました。
そこで、外国人の男性が店員の注意を引こうと手を振り、「Here!」と大声で呼びかけました。
店員は慌てて冷たい水を入れたコップを持って行き、夫婦の注文を取りました。
この様子を見ていた一人のおばあさんは、冷たい水を「ひや」と呼ぶものだと勘違いしました。
当時、透明なガラスコップに入った冷たい水は非常に珍しく、価値があるものでした。
西洋からの新しいものに対して「お」を付けて敬う習慣があったため、おばあさんは「おひや」と注文しました。
店員はおばあさんの意図を理解し、「おひやをどうぞ」と言って水を提供しました。
この出来事が契機となり、「お冷」という言葉で水を指すようになったという説があります。
お水とお冷の違いについて
通常、「お水」と「お冷」は同じものを指すことが多いですが、「お冷」は具体的には氷を入れた冷たい水を指します。
たとえば、薬を飲むときなど室温の水が必要な場合は、「お水をください」とはっきりと頼むと良いでしょう。
最近の「お冷」への認識
最近では、特に若い世代の間で「お冷」という言葉が知られていないことが増えています。
また、単に「冷」と言ってしまうと、常温で提供される日本酒を指す場合があるため、混乱が生じることがあります。
言葉の意味を知らない店員によっては、間違って日本酒が出されてしまうこともあるため、注意が必要です。
さらに、「お冷」はもともと店員が使用する専門用語である「符丁」に含まれており、客が使うと失礼とされることがあるため、水を頼む際は「お水」と言うほうが適切です。
まとめ
「お水」を「お冷」と呼ぶようになった主な理由は、女房言葉の「お冷やし」が省略されたことにあります。
また、「Here!」が「冷たい水」と誤解されたという説もありますが、これはあまり一般的ではありません。
「お冷」という言葉を通じて、日本人の丁寧な言葉遣いや文化が感じられます。
普段何気なく使っている言葉にも、様々な背景やエピソードが隠されているかもしれません。